教科書検定に関する意見書

 62年前の沖縄戦では、当時の県民の四分の一が犠牲となり、県土は焦土と化した。我が名護市においても戦闘や空襲等により市民をはじめ中等学校・女学校の生徒や青年団も「鉄血勤皇隊」、「護郷隊」、「義勇隊」、「救援隊」など様々な名称で動員され、5600人余の戦没者が記録されている。また、北部全域にわたる戦闘では、直接の戦闘による犠牲者とは別に、日本軍への食糧供給や協力のため多数の住民がかり出されるなど、地域住民がいや応なしに地上戦に巻き込まれていったのである。
 62年という歳月を経た現在でも県下では未収骨問題や不発弾問題をはじめ沖縄戦の爪あとは今も残されており、県民の記憶から消え去ることはない。
 沖縄戦の実相を知る体験者(語り部)の高齢化など沖縄戦の風化が憂慮されるなか、二度とこのような悲惨な戦争を繰り返さないためにも、沖縄戦の事実を正しく伝えることは極めて重要であると考えている。
 このような中で、2008年度から使用される高校教科書検定結果の公表によると、沖縄戦における「集団自決」の記述について、「日本軍による強制または命令は断言できない」との検定意見により、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正させられていたことが明らかになった。
 その根拠として文部科学省は、日本軍による命令を否定する学説が出てきていることや、自決を命じたとされる元軍人らが起こした裁判などをあげている。
 しかしながら、係争中の裁判を理由にし、かつ一方の当事者の主張のみを取り上げることは、文部科学省自らが課す検定基準である「未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはない」ことを逸脱するばかりか、体験者による数多くの証言や歴史的事実を否定しようとするものである。
 沖縄戦における「集団自決」が、日本軍による命令・強制・誘導等なしに、起こりえなかったことは紛れもない事実であり、そのことがゆがめられることは、悲惨な地上戦を体験し、筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられてきた沖縄県民にとって、到底容認できるものではない。
 よって、本市議会は、沖縄戦の事実を正しく伝え、悲惨な戦争を二度と繰り返すことのないよう、今回の検定意見が速やかに撤回されるよう強く要請する。

以上、地方自治法第99条の規定により、意見書を提出する。

 平成19年6月14日

                              沖縄県名護市議会

あて先:内閣総理大臣 文部科学大臣 衆議院議長 参議院議長
    沖縄及び北方対策担当大臣 沖縄県知事

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