教科書検定に関する意見書

 文部科学省の2008年度から使用される高等学校教科書検定結果の公表によると、沖縄戦における「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との検定意見書を付して、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正させている。
 同省は、「最近の研究成果で軍命はなかったという説がある」あるいは現在係争中の裁判を取り上げ「沖縄戦で起きた『集団自決』のすべてに軍命があったと言い切れない」等と一方の当事者の主張を意見書の判断根拠としている。これは文部科学省自らが課す検定基準の「未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはないこと」を逸脱していると断じざるをえない。
 沖縄戦における「集団自決」が、日本軍の関与なしに起こり得なかったことは紛れもない周知の事実であり、今回の削除・修正は悲惨な戦禍を耐えて生き残り、忌まわしい苦悩の事実を語り伝えてきた体験者の存在と数多くの証言や史実をも否定しようとするものである。
 沖縄県は去る大戦で国内唯一の地上戦を体験し、一般県民を含む多くの尊い生命を失っている。戦争犠牲者の中には、直接米軍の砲爆撃等による被爆死だけでなく、日本軍による「食料強奪、壕追い出し、非国民またはスパイ視容疑」等で死に追い込まれた人々がいた事をはじめとし、筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた県民にとって、今回の修正等は到底容認できるものではない。
 また米軍嘉手納基地をかかえる本町においては、戦後今日まで町民は戦争の不安にかられ、昼夜を問わない戦闘機事故、騒音・粉塵被害、そして航空機燃料もれ事故など様々な基地被害に苛まれ、快適な生活環境を長年にわたり脅かされている。この事実さえも沈黙すると黙認した事になり、町民史実の消去になる危険性がある事から常に原因究明と再発防止を訴えているのが現実である。
 よって、本町議会は、戦後生まれの世代が増え、一方で語り継ぐ体験者の減少化が進むこの時代こそ、史実をねじ曲げ風化させる動きを諌め、沖縄戦の実相を正しく伝えるとともに、悲惨な戦争を再び起こさないようにするためにも、今回の検定意見が撤回され、同記述の回復が速やかに行われるよう強く要請する。

 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

  平成19年6月28日

                            沖縄県 嘉手納町議会

 あて先 衆議院議長 参議院議長 内閣総理大臣 文部科学大

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