沖縄戦集団死の日本軍関与を否定
  教科書検定で文科省が書き換えさせる
 
 3月30日のテレビ・ラジオの放送と31日新聞各紙は、08年度用高等学校教科書(2・3年生用)の検定結果を発表しました。今回の検定では、224点が申請され、2点(いずれも生物の教科書)が不合格、他は検定意見を受けて修正した上で合格となりました。
 自衛隊派兵やイラク戦争についての記述を修正させただけでなく、「集団自決」(集団死)について24年ぶりに検定意見を付けました。沖縄戦の集団死(「集団自決」)は、日本軍の命令によって行われた悲劇であることは通説となっています。家永教科書裁判では、文部省が「日本軍による住民虐殺だけでなく、集団自決も書け」と検定で修正意見を付けたことが問題になったのです。それを、日本軍の元隊長が「命令していない」と言って、訴訟を起こしたからということで、書き換えさることは断じて許せません。
 文科省の記者クラブでの説明や国会答弁では、「日本軍の命令の有無について断定的記述を避けることが適当である」「従来、日本軍の隊長が集団自決命令を出した、というのが定説であったが、いろいろな証言・意見が出ている。」「最近の著書においても軍の命令の有無が明確ではない。当時の関係者から『沖縄集団自決えん罪訴訟が起こされ、原告(座間味島の守備隊長だった元少佐)の意見陳述』がある」などを理由にしたと述べています。
 0歳の子どもが自決することはないとして、近年では「集団自決」の用語を使わず、「集団死」「強制集団死」という用語が使われています。その点では、新しい研究・学説といえますが、文科省があげた曾野綾子氏の著書は1973年発行のものですし、2000年以後発刊された宮城晴美『母の遺したもの』(高文研)、林博史『沖縄戦と民衆』(大月書店)でも、隊長命令があったとは書いてないものの、日本軍によって「集団自決」を強制されたということははっきり書いています。
 それだけではなく、裁判所は、「平成17年(ワ)第7696号出版停止等請求事件」と呼称しているのに、文科省は原告側が使っている「沖縄集団自決えん罪訴訟」を使ったことも重大問題です。この点は、伊吹文科相も赤峰議員の質問で「適当ではない」と陳謝しました。裁判は、8回の口頭弁論が開かれましたが、原告である梅澤隊長は陳述書を提出しただけで、証言もおこなっていません。それなのに、一方の主張だけをとりあげて、検定意見を述べる教科書調査官のやり方は違憲・違法行為そのものです。
 小・中学校の教科書では、すでに自主規制によって沖縄戦の記述がどんどん減ってきています。なかには、まったく書かないものまであらわれています。
 新しい歴史教科書をつくる会や自由主義史観研究会の歴史修正主義者たちの策動を許さず、よりよい教科書を子どもたちに手渡すための運動をいっそう強めましょう。
 大江・岩波沖縄戦裁判の状況と今回の教科書検定についての学習会が、5月24日、午後6時半から エル大阪で開かれます。こちらにもぜひご出席ください。
 大江・岩波沖縄戦裁判については、大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会のホームページ http://www.sakai.zaq.ne.jp/okinawasen/ をご覧ください。
 
高等学校日本史教科書の「集団自決」(集団死)についての検定結果
 山川 A




 
申請図書の記述


 
島の南端に追い詰められた残存部隊は、アメリカ軍の火焔放射器を使った徹底的な掃討作戦にあい、「女子学徒隊」も集団自決に追い込まれた。6月末までに日本軍の組織的抵抗は終わった。島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが、日本軍によって壕を追い出され、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった。
検定意見 沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である
修正された記述

 
島の南端に追い詰められた残存部隊は、アメリカ軍の火焔放射器を使った徹底的な掃討作戦にあい、「女子学徒隊」も集団自決に追い込まれた。6月末までに日本軍の組織的抵抗は終わった。島の南部では両軍の死闘に巻き込まれて住民多数が死んだが、そのなかには日本軍に壕を追い出されたり、自決した住民もいた。
三省堂 B 申請図書の記述 さらに日本軍に「集団自決」を強いられたり、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑をかけられて殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。
検定意見 沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である
修正された記述 追いつめられて「集団自決」した人や、戦闘の邪魔になるとか、スパイ容疑を理由に殺害された人も多く、沖縄戦は悲惨をきわめた。

東書 A

 
申請図書の記述
 
沖縄県民の犠牲者は、戦争終結前後の餓死やマラリアなどによる死者を加えると、15万人をこえた。そのなかには、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民や集団で「自決」を強いられたものもあった。(沖縄渡嘉敷島「集団自決」の資料付)
検定意見 沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である
修正された記述
 
沖縄県民の犠牲者は、戦争終結前後の餓死やマラリアなどによる死者を加えると、15万人をこえた。そのなかには、「集団自決」においこまれたり、日本軍がスパイ容疑で虐殺した一般住民もあった(沖縄渡嘉敷島「集団自決」の資料付)。
 (なお、この本文記述についての資料〈別掲〉には、修正意見はついていません)







 
沖縄渡嘉敷島「集団自決」
 およそ一千名の住民は一か所に集結させられました。死を目前にしながら、母親たちは。子どもたちに迫っている悲劇的な死について、泣きながらさとすように語り聞かせるのでした。もちろん幼い子どもたちには、ともに死を遂げることの意味がわかるはずもありません。
 わたしたち兄弟も、男性として家族に対する責任意識があったと思います。自分たちを産んでくれた母親に最初に手をかけたとき、私は悲痛のあまり号泣しました。ひもや石を使ったと思います。愛するがゆえに妹と弟の命も絶っていきました。
                          (『戦争の真実を授業に』より)
 実教 B

 
申請図書の記述
 
また日本軍により、県民が戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。
 
検定意見 沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である
修正された記述
 
また県民が日本軍の戦闘の妨げになるなどで集団自決に追いやられたり、日本軍により幼児を殺されたり、スパイ容疑などの理由で殺害されたりする事件が多発した。
 清
水 B
 
申請図書の記述 ←図4 沖縄戦 現地召集の郷土防衛隊、鉄血勤皇隊、ひめゆり隊など非戦闘員の犠牲者も多かった。なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた。
検定意見 沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である
修正された記述
 
←図4 沖縄戦 現地召集の郷土防衛隊、鉄血勤皇隊、ひめゆり隊など非戦闘員の犠牲者も多かった。なかには集団自決に追い込まれた人々もいた。この沖縄戦ではおよそ12万人の沖縄県民(軍人・軍属、一般住民)が死亡した。







 

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