沖縄戦の教科書記述に対する不当な検定の撤回を要求する決議

 アジア太平洋戦争の負の記憶を消し去ろうとする人たちは、南京大虐殺・「従軍慰安婦」の次に焦点を沖縄戦に向けました。
 3月下旬に行われた、2008年度用「高校日本史」検定では5社7種の教科書から、沖縄戦記述における「集団自決」への日本軍関与が削除されました。1982年度検定を通っていた、実教出版の『高校日本史』の沖縄戦記述の「日本軍による住民殺害記述」が全面削除されています。1983年度検定では三省堂の家永三郎執筆の『新日本史』など数点が沖縄戦の住民殺害を記述しました。当時の検定では修正意見で、犠牲者数が多い「集団自決」を住民虐殺に先だって書くように修正させています。この検定では第3次家永教科書訴訟が提訴されました。それから四半世紀が過ぎた今回の検定では、ついに「集団自決」までを消し去る動きがでてきました。沖縄戦で日本軍は「住民を守らない」だけでなく「住民を虐殺」した歴史的事実の抹殺といえましょう。
 戦時下では、陸海空すべての周囲を敵軍に包囲されている状況を「合囲地境」といいます。沖縄はまさにその状態でした。軍司令官、牛島満が沖縄派遣直前まで校長の任に当たっていた陸軍士官学校の教科書では、「合囲地境においては地方行政事務および司法事務の全部管掌の権をその地の司令官にまかす」という規定がありました。この規定は軍命として沖縄戦で住民虐殺を含み実行されました。
 2005年6月、「新しい歴史教科書をつくる会」の別動隊である自由主義史観研究会が、歴史教科書の「『集団自決』の強制」記述の削除を国や教科書会社に求めることを決議しました。その動きにのる形で、渡嘉敷島・座間味島における「集団自決」には日本軍の軍命はなかったと、当時の司令官の関係者が2005年8月、大阪地裁に岩波書店の大江健三郎著『沖縄ノート』、家永三郎著『太平洋戦争』などの記述撤回を求める訴訟を起こしています。
 沖縄では4月以降、教科書検定の撤回などの運動が取り組まれ、全41市町村議会、沖縄県議会での2度にわたる検定撤回決議が出されるに至りました。9月上旬には、1995年の米兵による「少女暴行事件」以来の県民大会が開催されようとしています。
 現在、検定問題と大江・岩波訴訟の2方面で取り組みが続けられています。沖縄から発信した文部科学大臣、大阪地裁へのそれぞれの要請署名は7月末で40万筆に達しています。沖縄県議会、市町村議会などの代表は国に撤回要請を続けていますが、国から撤回するとの回答は得られていません。
 文科省・検定審議会に速やかな検定結果の撤回を求めるとともに、「近隣諸国条項」に匹敵する「沖縄条項」ともいうべき、住民虐殺・「集団自決」記述の恒常化を要求します。また9月10日、渡嘉敷島の「集団自決」生存者、金城重明氏の証言のための出張法廷が福岡高裁那覇支部で開催されますが、この審理を公開とすることを大阪地裁に求めます。

2007年7月28日          地理教育研究会・金沢大会

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